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社会人インタビュー

京大、篠原教授に訊く「マイクロウェーブとベンチャー、時々若者の未来」1/3

Writer|妹尾 脩平 Writer|妹尾 脩平
  • 読了目安時間:9分
  • 更新日:2017.8.10

技術のマネタイズには特許戦略のプロの力が必要。

-少し研究テーマのお話とは逸れますが、大学発ベンチャーが成功しない理由はなぜだとお考えですか?

いろいろ理由はあるんでしょうが、大学発ベンチャーでは、教授が兼業でベンチャーをする場合は自分のお給料を大学から貰えるじゃないですか。それって一種の保険ですよね。そして全然業績が振るわなくても、ちょっとだけ赤字になるくらいのリスクの無い経営をしているところが多いです。

そっちで稼がなくても、大学からお給料が貰えますので。このことが大学発ベンチャーが成長しない一つの遠因になっているのではないでしょうか。

でも、だからといってこの状況を批判しているわけではなく、自分で借金をして後ろ盾の無い状態で会社を立ち上げるべきだ、というわけでもありません。ご存じの通り、日本社会ではベンチャーが立ち上がった際には好意的な視線を向けられるのですが、いざ会社が傾くとなると凄い勢いで叩かれてしまいます。ベンチャーが育ちにくい社会構造なんですよ日本は。

この日本の社会構造というものは、ベンチャーが成功する上で考慮しなければならない点だと考えています。ソニーやホンダは昔のベンチャーの大成功例ですが昔の話です。今の日本でベンチャー的な企業と言えば私が尊敬するのは楽天とか、ソフトバンクとかでしょうか。昔はともかく、今のベンチャーで成功されている方々はこの社会構造をよく理解していて、欧米流と日本的を上手にミックスして経営されてますよね。

日本のベンチャーは、既存勢力に真っ向から反発することなく、ちょっとだけ「ハミ出す」くらいの部分でやっていくのが良いんだと思います。大学発ベンチャーに話を戻すと、まずは「ガジェットレベル」で買ってもらえるモノを作る、ということが大切だと考えています。

お小遣いの範囲で、物好きな方に買ってもらえるモノを、ということです。最終的には大量生産して、世界中の皆さんに使って頂こうと考えていても、いきなりその段階まですっ飛ばすのはムリです。

携帯電話を思い浮かべて下さい。今では携帯って大衆向けに普及していますが、これだって昔はガジェットでしかなかったんです。ものすごく今と比べると大きかったですし、通話料もとても高かったです。でも、最初に携帯電話を買った人が居てくれたから、「携帯電話」という分野がどんどん広まっていった。そしてその結果が今のこの状態です。

「良いモノ」が必ず売れるという方もいますが、それなら今の世の中はこんな風になっていません。(笑) 何か商品に「サプライズ」があって、そのサプライズに納得してもらえる値段を決めないと、消費者の方々にガジェットとして手に取ってもらえないんですよね。

-貴重な見解をありがとうございます。私は文系なので、大学発ベンチャーは「雲の上の様な凄い存在」のように考えていました。

そう見せている、という一面もやはり存在しますね。大学発ベンチャーの話をすると、「特許で稼げばいいじゃないか」と言う人もいますが、私から言わせれば特許なんていくらでも抜け道があります。

ワイヤレス給電に絡めた話をすると、こうやって取材に来てくれるレベルにまでワイヤレス給電が「ブーム」になったのって、2006年にMITが「共鳴発電」という方式でワイヤレス給電を発明して特許を取ったことがキッカケなんです。

「これは素晴らしい、大儲けできるぞ。」といった風に商用化を企みました。でも、その特許にはいくらでも抜け道があってMITはあまり稼げなかったんです。

この事例から考えても、1つの技術で特許を取ってそれで終わりとするのではなく、周辺の技術まで特許を固めてやっと「マシ」な状態になるわけです。またそれに加えて、特許登録した技術が活用されそうなところを探して、特許戦略を練るプロフェッショナルな人材も周りにいなければならないと思っています。

そこまで周到に備えても、自分が特許を取った技術が普及するとは限らないのも実情です。昔だとVHSとベータが、最近だとHD-DVDとBluelayが規格競争をしていたり。どちらの規格が勝つかなんて予測しきれないんですよね。

かつて「次世代CD」の規格競争が行われていた際も、「これからは高音質の時代だ」という考えから高音質CDの開発が進められていました。でも蓋を開けてみると、持ち運び可能なmp3が主流規格となりましたよね。開発側の予想に反し、そのときは消費者側は高音質かどうかではなく持ち運びできるかどうかを重視したわけです。

 

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