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スキーで世界に挑み、学問で世界を知る。京大生・本間樹良来の挑戦。

Writer|中村 達樹
  • 読了目安時間:9分
  • 更新日:2019.11.28

遠い世界を「知る」ことの大切さ

※画像提供: 日本オリエンテーリング協会

-スキーにかなり熱心に取り組まれていますが、学業との両立は大変ではないですか?

もちろん大変です。雪の降らない京都でスキーはできないので、冬に京都を出て長期間スキーのできる雪山に滞在することになるのですが、その間はスキー一色で、授業にも出られないですし勉強もできません。時間も限られていますし、練習日程に穴を空けるとすぐにパフォーマンスも落ちてしまいますからね。

実際スキーも学業もどちらも魅力的で、両方やるべきか、それとも片方に全力を注ぐべきかの葛藤はありました。そこで最後にはやりたいことを全て全力でやるのは自分には無理だと割り切って、全力を注ぐものは1年に一つずつにしようと決めました。

昨年は学業を最低限に留めてスキーに全てを賭けようと決めて臨み、トレーニングに時間をかけました。週1回は比叡山を走って登っていましたね。今までケガをしたことがない頑丈な身体だったのも幸いして、その分結果もついてきました。

今年は翻って、スキーに注いでいたエネルギーを学業に注いでいます。その分スキーに時間を取れていないので、どれほどスキーで結果を残せるか不安ではあります。留年して8年くらいかけて卒業すれば 思う存分に何でもできますけど(笑) 時間がない分それぞれに集中して取り組むしかないですね。

-大学ではどのようなことを勉強されていますか。

大きな柱は二つです。一方は農学部の研究室で、発展途上国の開発について政策・社会システムの面から分析することを念頭に、その過程で必要になる統計学・計量経済学の手法を学んでいます。

もう一方は総合人間学部の岡真理先生の下でパレスチナ問題について学び、さらにイスラエル・パレスチナ双方の現地の方との交流のために英語とアラビア語を勉強しています。もともと途上国の経済開発に関して興味を持ったのも、中東の紛争問題への興味からなので、両者は絡み合っている部分もありますね。

-紛争地帯に飛び込むのは危険ではないのですか?

観光客にとってはそこまで危なくないと感じます。兵士はそこら中にいますし、銃撃戦も起きたりはしますが、少なくともイスラエルとパレスチナに関しては日本人が一般に想像するような、「誰も彼も見境なく危険に晒される」ような状況ではないです。

-そのような紛争地帯の経済開発には、かなり特殊な問題が多そうですね。

そうですね。パレスチナの場合、どのような経済開発の問題もイスラエル政府の圧力が関係していて、単なる経済学の問題に帰着できません。単にパレスチナ自治区に援助をしたとしても、イスラエルの搾取を受けてしまい、結局当人のためにならないばかりか、むしろイスラエル経済を活発化させてパレスチナを相対的に不利な立場に追いやってしまう、 ということが十分起こり得ます。

そもそもパレスチナ自体経済はある程度発展していて、イスラエルの抑圧によって苦しんでいる部分の方が大きくなっているので、金銭的・物質的な支援より社会構造そのものを変えていかないと、パレスチナ住民の苦しみは解決できない状況になっていると思います。

水不足や農業効率の改善など、まだまだ発展の余地があるのも事実なのですが、仮にその点で援助が成功してパレスチナがさらに発展したとしても、それが結果的にイスラエルとの紛争の激化 に繋がってしまう、ということも考えられます。

彼らのためになることを決めつけてパターナリスティックに援助するのではなく、彼らのことを熟知した上で援助することの重要性は感じますし、それがこういった問題の難しさでもあると思います。

-それを知った上で、本間さん自身は何ができると感じましたか。

難しい問題ですね……。最初は経済開発の分野から紛争問題の解決に向けて動ければいいと安易に考えていたのですが、現地で問題の複雑さに触れて、その解決法は簡単には思い浮かばないと感じるようになりました。

だからと言ってもちろん、この問題は解決しなくてもいい問題だとは思っていません。実際に苦しんでいる現地の人々はいるわけですから。そこでこの問題をイスラエル・パレスチナ間だけの問題にせずに全世界に周知することが、紛争の抑止力になるかもしれない。そのために今すぐに自分にできることは、現地の状況を知り、それを周囲に伝えていくことであるように思います。


>> 次頁「非当事者だからこそ、国際問題に関わる意義がある」

 

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