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スキーで世界に挑み、学問で世界を知る。京大生・本間樹良来の挑戦。

Writer|中村 達樹
  • 読了目安時間:9分
  • 更新日:2019.11.28

非当事者だからこそ、国際問題に関わる意義がある

-とはいえ、やはり非当事者の共感には限界があるようにも感じます。

それは間違いないと思います。現地に行ったからこそ気づいたことなのですが、イスラエル人もパレスチナ人も領土に対する執着と、それを奪われることへの恐れが、日本人とは比べものにならないほど強いです。

ユダヤ人は国を持たず世界各地で迫害され続けてきた中で、ようやくイスラエルという祖国を手に入れた。それと引き換えにパレスチナに元から住んでいたアラブ人が今度は祖国を追われる側になった。

こういった歴史的経緯から、イスラエル人には、「パレスチナの国家建設を認めたら、いずれ自分たちの今の領土も戦争で奪われる」という恐怖感がありますし、これも無視できない問題だと思います。

この「領土を奪われる」ということの重大さを、そもそも日本人は強く受け止められない部分はあると思います。領土問題がないわけではありませんが、「いつ自分の住む土地が侵略されるかわからない」という恐怖に怯えるようなことはないですし。そういう部分に共感の限界はあるような気がしますね。

-そもそも、パレスチナ問題を「宗教問題」として、他人事のように捉えている日本人も多いと思います。

悲しいことにその通りですね。私の知る限り、全くそういう問題ではないのですが。 現地の方々も、この問題を宗教紛争だとは考えていないように思います。自分とは無関係な単なる宗教紛争だと捉えていると、背後にある政治的・経済的な問題への関心まで失ってしまうので、この見方は危険だと思いますね。

政治的問題として捉えるにしても、私たちは「イスラエルという強国が、自衛のためと称してパレスチナという弱者をいたぶっている」という構図で解釈してしまいがちですが、そこまで単純な問題ではないように思います。

イスラエルからパレスチナ自治区に入る時、現地の人に「あんなに危ない場所には行くな!」と本気で止められたんです。それほどイスラエル人は、建前でなく本音でパレスチナを恐れていると感じました。

しかし実際に行ってみると、パレスチナは十分に平和な場所でした。そして逆にパレスチナでは、「私たちはイスラエルのことを全く知らない。何を学んできたか教えて欲しい」と現地の人によく聞かれました。

ここでイスラエル人とパレスチナ人は、互いのことを全く知らないまま恐れているということに気づきました。これらの人々が互いに対話し理解し合うことが、問題の解決には重要であるようには思いますね。

ただ実際にこういった対話が大切だというお話はイスラエルで受けたプログラムでも聞いたのですが、パレスチナの人々に話したら「そんな対話できるわけがない!」と突っぱねられました。こういったお話をイスラエルで聞けたのは、イスラエル側のある種の「勝者の余裕」によるものであって、実際にはそう簡単に恐怖は解けるものではないのでしょうね。

-結局、自分たちの共感できる範囲で関わっていくことが重要なのでしょうか。

そうかもしれない、とこの取材の中で感じました。紛争の政治的問題は複雑すぎて、私自身それにどう関わればいいのか今はまだ全くわからないので、まずは 非当事者として違う角度からアプローチするしかないのかな、と。私の場合興味のある分野がたまたま経済開発で、研究職にも興味があるので、そこを通して現地の問題に関わっていけたらいいと思います。

パレスチナの問題は紛争に関わる問題だけではないですからね。パレスチナ人同士の格差・分断も大きな問題になっています。この原因にもイスラエル政府の政策が複雑に絡み合ってはいますが 、こういった問題には経済開発の面からも十分関わっていけると思います。

-逆に「非当事者が現地に行くからこそできること」もあるのでしょうか。

たとえば格差の問題は非当事者でないと気づかないと思います。私たち日本人も普段暮らしている中で、国内の格差の問題にはまず気付かないですよね。自分の周囲の環境について批判的に考えるというのは、外部の人間にしかできないことではないでしょうか。

農業政策についても同じことが言えますね。たとえばパレスチナの農業は、一見ものすごく非効率なんです。ただ無秩序に生えているブドウやオリーブを収穫するだけで、畑が整備されていない。ところが現地の人々はそれを当然だと思っているので改善しようとしないですし、改善する技術もない。こういったところで非当事者が役に立つように思います。

同じ非当事者でも、現地の状況を知らない人がパレスチナの農業を改善しようとすると「とりあえず砂漠を緑化してしまえ」という発想に至ってしまうかもしれない。そういう非効率的な、的を射ていない方法を取らないようにするには、現地のことを知るほかない。自分がパレスチナへ行く意義はそういったところにあると思います。

-では最後に、本間さん自身の今後の展望をお聞かせください。

まずは経済の面からしっかりパレスチナ問題を分析してコミットできるように、統計や経済学の勉強を頑張っていきたいと思います。その土台をしっかりと固めつつ、現地のことへの関心も忘れないようにしたいですね。あ、あともちろんスキーも!(笑)

-(笑) 今年もスキーシーズンが近づいて来ました。スキー・学業の両面での本間さんの更なるご活躍に期待しています。本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

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