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「生きづらさ」を感じるすべての人へ。自らの弱みを外部化する「当事者研究」の大切さ。

Writer|中村 達樹
  • 読了目安時間:9分
  • 更新日:2019.12.5

当事者研究と「退会者の会」の役割

-ここで大きく話題を変えますが、「退会者の会」の今後についてお聞かせ頂けますか。

はい、まず退会者の会の特徴として、似た性質の人が集まりにくいという点があります。同じような性格で、同じものが好きな人が集まれば、それだけで特に意識せずとも居心地のいい場所が出来上がりますが、広く門戸を開いている退会者の会では、どうしてもそうはいかない。

もっとも、その多様性を逆に利用して、他者との差異の中から自身の課題を見つける当事者研究を行っているわけですが、最近は当事者研究の他の役割についても考えています。

-具体的にはどのような役割ですか。

今までの当事者研究は、「悩み」や「生きづらさ」などの、個人の課題の負の部分ばかりを考察の対象としてきました。しかし当事者研究でわかるのは、本当に負の部分だけなのか。むしろ「何が好きか」という、正の部分についても考える必要があるのではないか、というのが最近の問題意識です。

時に生死に関わる悩みや辛さに比べて、「何が好きか」は問題意識を持つ必然性が低いですし、実際に意識が向けられることも少ないと思います。しかし、人は、何かを共有することで繋がり合う存在です。自分の「好きなもの」を明確化することは、心地よい居場所を見つける上で重要なことだと思うのです。このように、生きづらさを解消できる場への橋渡しの役割を、当事者研究が担うことができるのではないか、と考えています。

自分自身、退会者の会の他に漫画評論サークルにも所属しているのですが、そちらも好きなものを共有できる自分の居場所であるように感じますし、そういう場を持っているに越したことはないと思います。

-他の会員の方も、同様に「退会者の会」以外の居場所を見つけて欲しいと思いますか。

もし、退会者の会が合わなければ、自分と同じように別の居場所を見つけるのが一番です。

退会者の会を居場所にすることと、新しい居場所を見つける手助けをすること、どちらも追求していきたいのは山々ですが、後者の方を重視したいですね。会の居心地を良くするということは、それだけ会員の結束を強めることでもあり、そうすれば必然的に後から入ってくる退会者の方々の入会のハードルを高めることになる。これでは退会者の会としての機能が果たせているかは疑問だと思います。

そういった意味でも、退会者の会自体の居心地を高めるというよりは、むしろ次の居場所を見つけるヒントになるようなつながりとして機能させたいと思っています。もちろん次の居場所探しを強制する形にはならないようにしようとは考えていますが。

実際、僕の友達で、退会者の会に来たあと、別のところで居場所を見つけた人もいるんですよ。退会者の会が彼の新たな居場所提供にどれだけ役立ったかは疑問ですが、そうした偶然も起こるようなつながりとして維持したいですね。

-当事者研究に話を戻します。自身の問題を外部化する当事者研究の思考法は、悩みの解決や好きなものの再認識だけでなく、社会生活一般にも適用できるのではないでしょうか。

そうかもしれません。ただその上での課題は、退会者の会で取り入れている当事者研究が、そこまで研究として確立された手法を取っていないことですね。

うちの当事者研究は参加しやすさを重視し、個人が自身の問題について自分で考えることより、むしろ気軽に弱みを公開し合う場にすることに重きを置いています。もちろん言葉にするだけでも十分問題の外部化にはなっていますが、やはりもっとキッチリと考える時間を確保すべきかな、とも思っています。参加しやすさと研究の場にすることの両立は難しいですね。

-最後に、当事者研究の今後の展望についてお聞かせください。

他の一般的なサークルにも、当事者研究が広まって欲しいと思っています。

当事者研究は個人を変えるだけではなく、場全体を変える力があります。個人の語りを聞いて、周りが「この人は本当はこんなことを考えていたんだ」と気づいて変わっていく。そうして、全員の語りが終わったとき、その場全体の認知ががらりと変わっている。

全員にとって居心地が前よりいい場所になっているかもしれません。当事者研究は、場のつながりの強度を高める可能性を秘めた活動なので、サークルだけではなくいろんな集団で試して欲しいと思います。

-本日は貴重なお話をありがとうございました。今後、サークル退会者の会と当事者研究により、生きづらさを少しでも和らげられ、心地よく生きられる方が増えることを期待しております!

 

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