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社会人インタビュー

伝えるべき情報を、伝わるように。デジタル化戦略に見る「次代の新聞社」。

Writer|掛川 悠矢
  • 読了目安時間:8分
  • 更新日:2020.4.1

読まれなければ意味がない。

-藤谷さんは、紙とデジタルの両方の編集に関わられたそうですね。海外での記者生活から編集に関わるようになるまでの経緯をお聞かせいただけますか。

2013年にバンコクでの駐在から帰国して、デジタル委員という役職に就きました。今まで紙中心の考え方だった新聞社を、デジタルにシフトしていくための役職です。

僕は2012年から、社で公認のTwitter記者をやっていたり、元々動画を撮るのが好きだったりすることがあり任命されました。それに僕はデスク(編集部注:取材や執筆をする記者の上に立って、原稿のチェックや取材の指揮を行う役職)経験もあったので、今度はデスクよりも上に立って助言をするようなことを期待されていたのだと思います。

その後は、デジタル化戦略を立てる仕事や、編集局長補佐(紙とデジタルの編集局長を兼ねる立場)も務めました。

-経験の豊富さとデジタルへの親和性を買われたのですね。

ただ、デジタル化というとデジタルに全ての資源を回して展開することと思われがちですが、本質はそこではありません。

今までの新聞社は自分たちが重要だと思った情報を「これを読みなさい」という風に出していました。一方で例えばメーカーは、消費者の好みを分析してモデルを変えていくわけです。

-ジャーナリズムという理念がある以上仕方のない部分もあるように思います。

確かに「錦の御旗」がある。それを守ることはいいのですが、書いた記事が全く読まれていないとしたら問題ですよね。その場合、どうして読まれないのか、考えて工夫をしないといけないわけです。この課題は紙でもデジタルでも共通していて、「どうしたら読まれるのか」というのがここ数年間のテーマになっていました。

-センセーショナルなネットニュースは読まれやすい一方で、取材に基づかない記事やフェイクニュースも多いのではないかと感じます。どうすれば事実に基づいた新聞社の記事が読まれるようになるでしょうか。

僕たちの、ネットニュースと違うところは何かというと、ますデスクや校閲がいることです。間違いを発信してしまうリスクは僕らも背負っていますが、間違わないような段階を踏んでいます。

それにネットニュースは掲載した広告のクリック数で広告主からお金をもらっているので、例えば芸能人とか犬猫といった読まれる内容が中心になります。僕らは、僕らの記事を読みたい人からお金をもらってやっている。これらのことでネットニュースと差別化を図っていくことが必要だと思いますね。

だからこそ、あえて「PV(Page view=視聴数)競争」には乗る必要がないと思っています。ネットニュースの、チェックを通さないからこその早さやセンセーショナルさには勝てないし、同じことをすれば自分たちのブランドを傷つけかねません。

-サブスクリプションというところでは、ニュースに毎月お金を払うよりもNetflixやSpotifyに課金する、という人もいるのではないでしょうか。

それがまさに今一番大変な部分です。今までと違って、東京なら通勤時間で皆映画を観たり音楽を聴いたりしています。通勤時間が30分や1時間なら、そのうちの5分や10分でもどうやって僕らの記事を読んでもらうか。大きな課題になっています。

-ニュースを見る重要性を知ってもらう取り組みが必要そうです。

勿論それも重要ですし、先ほども言ったようにどうしたら読まれるのかを考えていく必要があります。ライバルである日経新聞さんはデジタルの企画系記事が強いですね。(日経新聞デジタルのアプリを開いて、スクロールして見せながら)eスポーツ、ラグビー、宇宙… 新たな若い読者層を意識したページが作られていることが分かります。

自分は今編集から外れているので外から見ていてダメだな、と思うのですが、朝日新聞デジタルのアプリは企画系が押し出されていなくてダラっとしています。朝日の記者も同じくらい取材をしているはずだけれど、読まれなければ意味がありません。


>> 次頁「一人一人に、デジタル化への当事者意識を。」

 

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