社会人インタビュー
京大、篠原教授に訊く「マイクロウェーブとベンチャー、時々若者の未来」2/3
Writer|妹尾 脩平 |
- 読了目安時間:10分
- 更新日:2017.10.18
前回はマイクロウェーブの研究内容とその応用、また大学発ベンチャーについて語って頂きました。中編となる今回はマイクロウェーブの技術があまねく国民生活に寄与するために必要な要素と“1万年人類を長く繁栄させる”ための「宇宙発電」について語っていただきました。
自分が死んでも“業界が止まらないようなシステム”を。
-今まで伺った話によると、篠原教授は大学の研究を安易にベンチャー事業化するべきではないとお考えだと感じたのですが、その認識で宜しいでしょうか?
一概には言えませんし、その方がいい研究もあると思います。しかし、ワイヤレス給電はまだ市場そのものが存在しないので、一社が儲けることではなく研究分野の裾野を広げてあげることが今は重要と思っています。
市場を広げつつ、自分の研究した技術を用いて企業が儲けてくれるのは全然OKで、そうして儲ける人がどんどん増えていってくれるのが理想です。そこから派生する技術も生まれてくれるでしょうし。
先程の話でいくと、技術が素晴らしいから広まるわけでもないですしね。かつてブームになる前、ワイヤレス給電の分野は非常にニッチで、研究をしているのは私の研究室だけといっても過言ではない時代もありました。
でもその時に、「自分のところしかやっていないから」という理由でベンチャー事業化していても上手くはいかなかったと思います。ニッチなんだから、別にこの技術がなくても人々は困らないですからね。
-そうなんですね。私は文系の人間なので門外漢ではありますが、大学の研究機関はそうあって欲しいと思っています。
まあ、税金も貰って研究しているわけですしね。自分だけ儲けてもダメかなと思っていて。大学で基礎研究を何十年も続けた成果が評価されてノーベル賞が送られる事例があるじゃないですか。個人的には「大学はああいう風にあって欲しいな」と思っています。
また、日本の社会構造の話も先程しましたが、ある程度大学に立場を保証されている私達だからこそ比較的自由にモノを言って、及び腰になっている産業界を引っ張っていくことができるんです。工学部って「モノを作ってナンボ」の学問なので、産業界との連携が必須なんですよ。
アメリカに目を向けると、イーロン・マスクや故スティーブ・ジョブズのような人が旗振り役をしていますが、あれと同じことを日本の民間だけでやるのは社会風土上難しいのかなあと。
-篠原教授は、ご自身が儲けるのではなく、ご自身の研究によって社会が豊かになることを志向していらっしゃるのですね。
そうですね。これは学生に対してよく言っているのですが、「自分が死んでも業界が止まらないようなシステムを作ってから死にたい」と。業界自体の裾野を広めることができれば、仮にトップが変わっても裾野がその業界を支えてくれます。いくらトップがノーベル賞を取るほど偉かったとしても、その人が亡くなってしまったら止まっちゃう業界はあまり意味がないんですしね。
その点、「ワイヤレス給電業界」の裾野は昔と比べてかなり広まりました。キッカケはMITが火をつけてくれたことなんですが、その後も私のような人たちが色々な人を巻き込みまくりましたから。
国際や国内の学会をいくつか作ったし、コンソーシアムも組織しました。学会は今のトップがもう何代目かになっていて、私が会議に出ても子どもが育つのを見ているような感覚になります。同時に「私はもう要らないんだな」って思ったり。(笑)
-業界自体はすくすくと育ってきているのですね。それでは、ワイヤレス給電があまねく国民生活全体に普及するには何が必要なのでしょうか。
「キラーアプリ」が必要だと考えています。業界も広がり、研究も進んでいるのですが、世間一般に浸透するようなキラーアプリが存在しないのが現状です。理論的・技術的な限界は既にハッキリしていて、そこが原因になっているわけではありません。何かワイヤレス給電技術が活用されたモノが当たってくれたらなあ、といったところです。
>> 次頁「キラーアプリになり得るのは、充電パッド!?」
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