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社会人インタビュー

「一つ宝石が見つかればいい」。教育と研究のあり方を、秋野教授に問う。

Writer|前田 彩友子
  • 読了目安時間:11分
  • 更新日:2020.4.13

秋野順治、京都工芸繊維大学応用生物学課程教授。昆虫科学を専門とし、直近はヘンリック・ニーラチュカー氏(インタラクティブデザイナー)らとアリのコロニー内で行われている複雑な社会構造やコミュニケーションの仕組みから着想を得たモビリティサービスのデザインPJに取り組んでいる。該当のPJや研究者として生きる面白さを訊ねる。

「アリ✕モビリティサービス」、奇妙にみえて合理的な組み合わせ

-今日はお忙しい中、お時間をつくって頂きありがとうございます。早速ですが、秋野先生は今回どういった経緯でニーラチュカー氏と共同研究をされたのですか。

KYOTODesignLab主体で、応用生物学課程の研究内容を基にデザイン力を生かした共同の取り組みをしようということで、前年には、ショウジョウバエ研究を担う染色体工学研究室の山口政光教授が協力していました。

ヒトの疾患メカニズムの研究をショウジョウバエで行うことの意義を伝えるため、デザイン力を駆使して、ヒトとショウジョウバエの体のメカニズムを模型化してわかりやすく説明するというプロジェクトです。

そのプロジェクトが終わって、ショウジョウバエの次はアリでどうですか?と言われたのがきっかけです。

-なるほど。今回のプロジェクトではアリのコロニーの仕組みを利用したとありますが、アリのどのようなところを利用したのですか。

アリというのは社会性があり、家族同士が互いに協力しているけど、実はリーダーがいなくて、でも集団としてまとまっているのが特徴です。今回取り組むにあたっては、スカイプや直接対談を通して、ニーラチュカーさんが私の研究の話を聞きに来てくれました。

うちの研究室は主にアリの社会行動を研究しています。フェロモン(生物が体内で生成し、体外に分泌後、同種、他種の個体に行動や発育を促す生理活性物質)を使ったコミュニケーションが盛んなんですが、彼女らは基本的に自分の目の前のことしか知らないんです。にもかかわらず、数百・数万匹でできている集団全体がうまくシステムとして機能している。

人間社会だと、リーダーがいないと大人数はまとまらない。でも彼女らにはリーダーはいなくて、それぞれが局所的な情報を繋ぎ合わせているだけなのに、全体ではうまくいく・・そんな仕組みをもっているです。

その仕組みは、いろんな人が興味をもって研究していて、一見単純そうに見えて奥が深い。おそらく、彼女らが持っている行動応答プログラムは割とシンプルだけど、数の力を活かした多様性で集団としてのまとまりを維持しているんです。このあたり研究は、広島大学の西森拓教授と一緒に進めています。

-そうなんですね。その仕組みをどのようにモビリティサービスに取り入れたのですか。

ニーラチュカーさんに、リーダーなしで動くアリ社会の話をしたら、すごく興味をもってくれました。それをうまく活かせば、それぞれはバラバラで動いていても、全体としては効率よく合目的に動くような社会システムを創り出せるのではないか、と。

中央集権に対する地方分権という構図が描けるように、実際そういう試みはたくさんあるんだ、とどんどん話が進みました。

そこであがってきたのが、街中でタクシーを使うとき、今だと無線を使って配車指示をしているけど、一カ所に情報を集めなくても効率よく配車することができるんじゃないか、という点。ゆくゆくは自動運転システムでタクシーをうまく配車できそうだ、ということを考えたのです。

今の仕組みだと、全体の情報を統括する中央管制室が必要で大きなシステムを使って多量の情報を管理しなければいけない。でも、そこにアリの仕組みを用いれば、小さい分断型のシステムで制御できる!そう考えて、いろんなデザインを基にモデルを作ったんです。

私がアイデアの源としてアリに関わる情報を提供し、彼がそれをアレンジしてモデルを組むというコンビネーションで作りあげていきました。

自動運転ライドシェアにむけた分散型コミュニケーションシステムを促進するために、アリの巣の中での労働分業(タスク配分)に関わるような行動原則を、そのライドシェアシステムに組み込んで、自動運転車とユーザーのスマートフォンとの分散型通信を可能にします。

これだと既存のネットワーク技術をべースにしているため、中央集権型のコントロールなしに大きなネットワークを構築することができます。

このシステムはユーザーと自動運転車が存在する限りシステムは常に機能するので、とても便利です。さらに、すべてのデータとコントロールがユーザにとどまるので、プライバシーも守ることができます。

-具体的には、どういったところに利用されますか?

自動車にしてもアリにしても、ワンユニット―つまり1台1台、一匹一匹が自分の意思をもって動いています。自動車だと、交通管制を聞いていても、ある限度を超えてその数が増えてくると、立ち往生してしまって完全な渋滞になってしまいます。

でも、アリの集団には、交通管制情報がなくても、完全渋滞で立ち往生していることはない。

それは、個々のアリが、目前の個体が歩くスピードを落とすと自分もスピードを落とすし、早まるとそれなりに早めるという行動制御をおこなっていて、フェロモンなどをつかった情報伝達がうまいこといっているからです。

彼女ら一匹一匹が何をどう判断して状況に対して対処しているのかを、うまく模倣して運転プログラムに組み込み、自動車の運転速度を自動制御してやれば、渋滞を緩和することができるのではないかと。東京大学の西成教授らが試しています。

人の意思を介在せずに、反映させることができるというのがこのシステムのいいところです。

-なぜこの昆虫であるアリとモビリティサービスを結びつけたのですか?

人間社会が創り出してきたシステムが行き詰まってしまったとき、そこに違うルールに基づく仕組みを参考にして、そのシステム改善をはかってみてはどうだろうかというのが一番の動機だったと思います。

ニーラチュカーさんは、これからの日本の人口減少、超高齢化、郊外や田舎での公共交通機関の衰退の対策として、カーシェアリングというシステムを取り入れることも考えていました。

そこに、このアリの社会行動から着想を得た分断型システムをあてはめてみたいと言っていました。これから日本が直面する超高齢化の問題を解決するには、若者層を中心とする人口を増やすことが重要なんですが、それはなかなか難しい。それなら、発想を転換して今ある仕組みを変えていこうというのです。


>> 次頁「アリ研究者の語る、研究の面白さ」

 

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