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社会人インタビュー

科学の限界への挑戦。若宮教授の描く、『持続可能な未来』とは。(前編)

Writer|古河 秀鴻 Writer|古河 秀鴻
  • 読了目安時間:8分
  • 更新日:2018.4.3

利潤追求だけでは“長期的な基礎研究の成長は見込めない”。

-なるほど。鉛の規制というのは企業にとって大きなリスクになりますね。

ただ、株式会社がリスクを取らないということは多くの損失を生んでいることも確かです。僕は以前に有機ELに携わっていたんですが、利益が出る目処がなかなか立たないということで、研究が打ち切りになったんです。

大企業の多くは「5年任期」など、任期制の社長が多く、単年度や長くても数年先の利益を優先する(基礎研究ではなく、より売上や利益率の向上に目がいく)状況に置かれています。

かつて日本の企業は世界トップの技術を持っていたんですが、こういった流れの中で、「より条件のいい」、韓国に技術者が流出して行って、技術も全部抜かれてしまったのです。

そういった現実を見ているうちに、僕はもっと長い期間で、もっと先のことを考えて研究をやりたい、と思っていったわけです。

大学なら20年間サポートをしてくれるという話もあり、それで始めることになりましたね。

-技術流出については、近年取り沙汰されることも多いですね。

そうですね、先程も少し話に出ましたが、外国に技術が流れないよう、日本の基礎技術を高めつつ、日本の国益に繋がるようにと、そんな思いを持ってやっています。

日本の企業は、高い技術力があって、開発などに関しては本当に凄いですよ。しかし、多くの企業の経営方針では会社の目先の利益しか考えられないという力学が働いています。

そういう今のトレンドはこれからすぐに直る話でもなくて、技術流出などは課題として残ると思います。

そこを何とか大学発ベンチャーとして最後の砦になりたい。そして、バッファーになりたい、と考えています。

-ご研究分野において、諸外国と協働していかれるといったことがあるのでしょうか。それとも国内を中心に活動されるのでしょうか?

今この研究が進んでいるのが、韓国・イギリス・スイスなどで、それぞれベンチャーも起こしてやっている中で、もちろん競争はありますが、それ以外にも、協働することは多くありますね。

まず論文で共有して、年に数回の学会で話をします。国は違えど、どこの国が一番先に発表して名前を上げようというよりも、このデバイスを国際社会に実装したい思いは皆さん一緒です。

もちろん同じ分野で個人単位で特許を取っていたりもしていますが、やはり最先端技術なので、協力は必要なわけですよね。

-大学発ベンチャーというお話にフォーカスしたいのですが、ベンチャー企業は大企業に比べて企業体力が少ないため、産学官連携で”官”が入ると長期的に安定して進められるのでしょうか?

本来は官がやる必要は無かったのかもしれないですが、経営者が次々に交代し、産業が持続的に発展しない現状を見ると、官が入らずに進めていくのは難しい部分があるかもしれません。

仮に皆さんが雇われ社長になって企業を経営して行くとしましょう。その場合、「数年間与えられる任期」で最大の結果を出そうとしませんか。5年間などの任期の中で、(利益を圧縮して)ずっと先の、数十年先の未来に巨額の投資が出来るでしょうか。

それはなかなか難しいでしょうね。みんな目先の短期的な利益しか追い求めない。そういった状況は長期的な投資を阻むだけでなく、長期的な産業や企業競争力の衰退という危険よりも、目先の利益を選択させ、数代後の会社で技術流出や経営破綻といった大きなリスクを負わせることになるかもしれません。

短いスパンの経営戦略を立てるということでは、本当の意味で『基礎研究』が大きく成長することはないと考えています。そういった意味で、今回のような研究開発のプロジェクトにおいては、一人で経営を長期的にやっていくほうが効率的だと感じます。


>> 次頁「世の中あるいは人類に貢献できる研究を。」

 

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