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社会人インタビュー

科学の限界への挑戦。若宮教授の描く、『持続可能な未来』とは。(前編)

Writer|古河 秀鴻 Writer|古河 秀鴻
  • 読了目安時間:8分
  • 更新日:2018.4.3

世の中あるいは人類に貢献できる研究を。

-なるほど。ありがとうございます。ここまでは経営のお話でしたが、具体的に太陽電池の研究についてもお伺いできますでしょうか。

先ほども言っていたように、僕のバックグラウンドのひとつとして有機エレクトロニクスがあります。これまでのエレクトロニクス(電子デバイス)の材料には、シリコンなどの無機材料が主に使われてきたのですが、その材料に有機化合物のプラスチックを使うと小さくて薄くなる、それが有機エレクトロニクスなんですね。

(有機エレクトロニクス:有機半導体を用いた電子工学。有機ELは、有機エレクトロニクスの産物の一つ。)

トランジスタやテレビが有機エレクトロニクスの代表例です。材料に有機化合物のプラスチックを使い、小型化できるものです。これらは材料がすごく大事なのですが、私は化学を専攻していたので、それらを設計、開発できる人間なんです。

特に得意だったのが分子設計というもので、発光するものや、通電するものなど、そういった材料を設計できるんです。

それを実際に作って、測定して、というのが僕のもう一つのバックグラウンドです。実際どういうことをやって来たかというと、博士号を取ってから名古屋大学に行き、その時にホウ素というたくさんの特徴がある元素を使って、様々な分子を作っていました。

固体で発光するものってあまりなかったのですが、僕は固体で綺麗に強く発光するもの(新規π共役系)を作りました。しかもフルカラーだったので、これがウケて、ドイツの有名な雑誌の表紙に載り、多くの賞を貰ったのです。

これも、天邪鬼で、普通だったら分子をいじるのは平面の方が良いのですが、僕は捻ってみたという。ちょっと表現が難しいですが。(従来は平面構造において分子設計を行っていたが、準平面型の分子設計概念を使い、有機太陽電池の高効率化や有機ELの高性能化につながる有機半導体材料を開発した。)

そんな中、京大に准教授として戻ってくることが決まった頃に、今後、次はどんな研究をやっていこうかと考えました。その時、自分がいつか退職する時に、これまでに何の研究をして来たかを振り返って、「学術的に面白い!」研究の他にもひとつ、何か世の中あるいは人類に貢献できる研究テーマが欲しいなと思いました。成功するか分からないですが、それらの課題の解決に向けて研究してきたという軌跡を残したいんです。

そこで「何が現代あるいは将来の人類において重大な問題なんだろうか」と考えました。そこで、すぐに、「エネルギーや資源ではないだろうか」と仮定したのです。そして今までは興味がなかったのですが、資源問題を解決する次世代の要はこれだと思い、太陽電池の研究を始めたわけです。

これはどんな講演会でも言っているのですが、身の回りの物は殆ど石油からできています。プラスチックが代表的なもので、現代人は石油を使い過ぎているんですよね。

さて、現在、地球上に残ってる石油の量は、富士山をカップに見立てると、何杯分ぐらいだと思いますか?

-5杯ぐらいでしょうか?

良い線いきますね。約 1 / 8.8(0.113…)杯とも言われています。今の文明、文化、この便利な世の中は、何億年もかけてストックして来た石油などの天然資源を使い倒したということに基づいて出来てるわけですよ。

ここ100年で人類は急速に石油を使ってきました。今の時代は良いかもしれないですが、「孫・ひ孫の時代になって今みたいな化石燃料に依存した文明が成り立つのか?」この疑問を真剣に考えたのです。この問題は現代の科学への挑戦だと感じました。

その問題解決への礎になるべく、何かしらの形で研究者として携わりたいと思い、そこが今の研究のキッカケでもあり、モチベーションでもあります。

実は、屋根に”若宮触媒”というのを塗って、太陽光と空気中の二酸化炭素からメタノールを生成し、雨樋からメタノールが流れ降りてくる、そんなシステムを作るのが本当の夢なのです。

植物がやっているように、光エネルギーを使って二酸化炭素を還元して使える化学材料にする、いわゆる人工光合成ですが、究極的にはこれをしたいと考えています。

(後編に続きます)

 

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