いつか世界で活躍する「誰か」にSpotlightを。

spotlight

極限の地“アラスカ”での挑戦。京大理学部生が追いかける「オーロラの音」。《前編》

Writer|木原 弘貴 Writer|木原 弘貴
  • 読了目安時間:12分
  • 更新日:2018.1.17

極限の地”アラスカ”だから見えたこと。

-本当に偶然なんですね。司さんが、そもそもクリプトクロムに興味を持たれたきっかけはなんなのでしょう?

司さん 今、脳の中でのやり取りは、電気信号を伝わって送っているとされています。ただ、脳の中では電気信号の他に脳波も出ています。

今のところ、脳波は脳の活動の副産物としか考えられていないんですが、脳波で情報をやり取りできたら素敵だなと思ったんですね。

それで脳で電磁波に反応する分子は何か?と考えたところ、複数の候補の中から、「鳥のクリプトクロムが電磁波に反応する」という文献などを踏まえた上で、クリプトクロムが一番妥当であるとなりました。それが僕がクリプトクロムに興味を持ったきっかけです。

-神経や脳に関しては大学に入ってから興味をもたれたんですか?

司さん 高校生の時、神経や記憶に関する研究を行なっていて、延長といえば延長ですね。

-高校の時から研究をなさっていたんですか?かなり珍しいですよね。

司さん 高校に入るまではホント何もしてなくて、高校の時に叔母に「生物オリンピックに出てみたら?」と言われて、そこからどんどんハマっていった感じですね。

その後、高校に直談判して、(科などの研究ではなく個人で)研究させてもらっていて、研究内容を新聞社に出したんですけど、落とされちゃって。だから、当時の研究ってのは未発表で眠ったままなんですよね。

-すごいですね。当時は具体的にはどのようなことを研究なさっていたのですか?

司さん 多細胞生物のプラナリアに関する研究を行なっていました。プラナリアは、体の一部を切り落としても、またその一部が再生するんですよね。脳を切り落としても、脳がまた生えてくるみたいに。

プラナリアに学習させて、脳を含む頭を切り落とすと、また頭が生えてくるんです。切り落とされる前までの記憶は、切り落とされた脳の中にしかないはずですよね。

そのため、その記憶は、再生された脳に残っていないと考えられます。しかし、それが面白いことに、その記憶が残っているんですよね。そのような研究をやっていました。

-少しアラスカでの研究の方に話題を戻させていただきたいと思います。現地での生活で苦労したことなどあれば教えてください。

天羽さん アラスカの気温はとても低く、寒かったですね。また、私たちは、基本23時〜翌朝の5時の間、夜通しで観測を行なっていました。そのため、最低気温の中での観測となり、とても寒かったです。自分も何枚もの服を着込んで、観測を行なっていました。

司さん 昼間の気温は20度ぐらいだったので、寒暖差が激しかったよね。

藤田さん そうだったね。あとは睡眠かな?

天羽さん そうだね。睡眠はあまり取れていませんでした。現地に着く前での予定では、私たち4人で、アラスカ大学の赤祖父教授の元に一度お邪魔させていただくことが決まっていました。

実際に、赤祖父教授にお会いしてみると、大変気さくな方で、「もっとアラスカ大学においでよ」とお声をかけていただけました。

それをきっかけにアラスカ大学の方にもお邪魔させてもらうことが多くなり、アラスカ大学の他の研究者の方と議論をさせていただきました。

その結果、昼はアラスカ大学へ行き、オーロラの観測は当然夜なので、夜は夜通しで観測することになり、睡眠時間の確保は難しかったですね。

司さん あとこれは苦労したことではないんですけど、オーロラを観られたのはもちろんのことながら、真っ暗だったこともあり、スコープ越しではなく、“肉眼”で、天の川を初めて見ることができたのは嬉しかったですね。

藤田さん それに、肉眼で流星もかなり多く見られましたし、人工衛星も見られました。

天羽さん 人工衛星の場合は、光が1つで、飛行機の場合は、両翼に明かりがついているので、光が2つあります。その違いで見分けるらしいです。

-苦労したこともあり、感動的なこともありだったんですね。次に研究に関して、実際にやってみて難しいと感じたことはありますか?

天羽さん やっぱり、実際に観測してみないとわからないことは多いですね。また、自分たちの研究で必要とされるデータが得られない場合に、現地で試行錯誤を重ねながら、修正していくことに苦労しましたね。

例えば観測手法に関しても、観測前に自分たちで考えてはいましたが、現地で実際にやって初めて、「角度が少し違うな」であったり、「測定器具の繋ぎ方が不適切である」と気づかされ、それを踏まえて修正を行なっていきました。

高冨士さん アラスカから日本に帰って来た後に、現地で使用した機器に関し、実際に使用した時の使用方法よりも、測定に適した使用方法に気づくこともありました。

-観測方法一つとっても難しいものなんですね。観測すると一言で言っても、アラスカでは、何を観測されていたのでしょうか?

天羽さん オーロラの撮影ももちろんありました。ただ、自分たちが検証したい仮説は、電磁波を主に扱っていることが多いと考えていました。そのため、主に観測していたのは、地上での電磁波を測定することでした。

どういう電磁波が地上で発生しているのか?それぞれ周波数のどの周波数帯が強いのか?その強さはどの程度の大きさなのか?に焦点を絞り観測していました。

高冨士さん 測定に必要な測定器具を選択する作業もなかなかにしんどかったよね。
多くの先生に相談しに行ったり、自分たちで調べながら考えていくのが結構大変だったよね。

天羽さん 電磁波の測定において、全ての周波数帯を測定するのは不可能なんですね。そのため、測定する対象の周波数帯を絞り、測定を行う必要があります。

どこの周波数帯に絞って、測定を行うのか?に関しては、4人全員が理屈的に正しいと納得するまで、徹底的に議論を重ねました。


>> 次頁「クリプトクロムが持つ、オーロラの音を解明する可能性。」

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter で[公式] ビックイヤーをフォローしよう!