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「生きづらさ」を感じるすべての人へ。自らの弱みを外部化する「当事者研究」の大切さ。

Writer|中村 達樹
  • 読了目安時間:9分
  • 更新日:2019.12.5

白木しん(仮名)。京都大学文学部2回生。「サークル退会者の会」創設者・代表。サークル退会者などの「生きづらさ」を感じる人々に対し、居場所提供と当事者研究を行う。自身もサークル退会者である彼の語る、生きづらさについて自ら考えることの意義とは。

「当事者研究」とは

-本日はお忙しい中ありがとうございます。最初に、「サークル退会者の会」の活動の概要についてお聞きしてもよろしいでしょうか。

はい、サークル退会者の会では主にボードゲーム会・食事会・当事者研究の三つを活動の中心に据えています。

ボードゲーム会はその名の通り単に教室に集まり、ボードゲームをするだけの会です。ただ活動の目的はあくまでボードゲームではなく居場所の提供なので、ゲームが得意な人だけの閉鎖的な空間になってはいけない。そこで行うゲームを選ぶにあたり、「ルールが簡単」・「運要素が強い」の二つの要素を備えたものにすることで、誰でも来やすい空間になるよう心がけています。

食事会も単に大学の食堂に集まり、食事をするだけの会です。「京大ティーブレイク研究会」さんの、ただお茶を飲むだけの活動から着想を得て取り入れました。

ボードゲーム会ではいくらゲームの選定に気を配っても、ボドゲ自体にそもそも興味がない人にとっては、ハードルが高いものになってしまう。それに比べて、ただお茶を飲んだり食事をしたりするだけの会は、誰にとっても参加のハードルが低いことに気付いたんです。これからは食事会の頻度を多くしていこうかと思っています。

-最後の「当事者研究」は聞き慣れない言葉ですが、どのような活動なのでしょうか。

これは説明が難しいですね。「当事者研究」は他者との対話の中で、自分自身が抱える問題を外部化し、それについて自ら考えることを目的とした活動です。この目的の根本には、「他者と何が同じで、何が異なるかによって『自分』が形作られる」というアイデンティティ論があります。

当事者研究はもともと北海道の「浦河べてるの家」という精神障害者の活動拠点施設で始まったものです。精神疾患を抱える人は、幻聴や幻覚などで対話そのものが難しい状態にあるので、どうしても当人の個別的事情が無視され、医学の問題として画一的に扱われてしまう。

しかし、同じ精神障害者でも幻聴が聞こえるに至った経緯は皆異なります。幻聴がその人の人生において持つ意味も人それぞれです。それを画一的に取り除くべき治療対象とするのではなく、個々の問題として扱うのが当事者研究です。

ところで、フランクルの『夜と霧』を読んだことがありますか?私も最近読んだのですが、フランクルの思想は当事者研究に大きな影響を与えているんです。

-細かいところまで読んだことはありませんね……。強制収容所に入れられた筆者の手記だということは知っていますが。

では、収容所の状況をイメージして下さい。

そもそも自分の意思で収容所に入ったわけではない収容者にとって、収容所で働くことにそもそも意味はありません。その意味を見出すこともできません。

そこでフランクルは「我々が人生の意味を問うのではなく、人生に我々が問われている」と主張しました。すなわち自分に今どのような課題が存在するかを明確化し、その課題に応えることで実存を保つべきだ、と考えたわけです。

ここで重要なのは、あくまで「今」どのような課題が存在するか、ということです。収容所の例で言えば、フランクルは「今働けば、将来外に出た時にいい事がある」という意味の見出し方を推奨しているわけではありません。

そのような希望を根拠に生きていると、たとえば決して収容所を出られないという事実を知るなどして当の希望を失えば、人は簡単に生きられなくなってしまいます。

そうではなく、「今ここに自分のやるべき課題が与えられていて、それに応える」という行為それ自体によって、主体の実存は支えられている。これがフランクルの主張です。

精神障害者の方も、目的を与えられた存在ではないという点で収容者に類似しているので、フランクルの考え方が応用できます。その段階において、個人の直面している個別的な課題は、本人の中にしかないものです。

医学の専門家が外から与えるのには限界がありますし、治療者だけに病気について語る権利が与えられるということになると、患者が自分の生について考える機会を奪ってもいるわけです。そういった個別的問題にアプローチしていくのが当事者研究です。

-なるほど、個人のそれぞれ異なる課題を、個別事例のまま分析していくのが「当事者研究」なんですね。

はい。そして、何よりも重要なのが、研究活動を他者と共同で行うことです。

べてるの家の活動が生んだ「自分のことは、自分だけで決めない」というフレーズがありますが、自分という存在は他者との関係性を抜きに考えられないものなのです。


>> 次頁「誰もが「生きづらさ」という病を抱えた病人である」

 

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