「はたらく」のミスマッチをゼロに。

社会人インタビュー

音楽でワインが美味しくなる?京大の若手研究者が音と生命の関係を切り開く。

Writer|細辻 あおい Writer|細辻 あおい
  • 読了目安時間:10分
  • 更新日:2019.3.6

音を聴かせると細胞が筋肉になりやすい!?全く新しい分野の研究をするということ。

-では実際の研究についてお聞きしたいのですが、先生は現在、細胞が音に反応するかどうかを研究されているのですよね?

そうですね。本当は醸造もやりたいし、音楽にこだわりたい気持ちもあるんですが、本当に微妙なバランスのせめぎ合いで結果が大きく変わってしまうので対照実験が難しくて。

そういったものに着手できるのは結構、後のことになるでしょうね。まずはシンプルに細胞と音の関係について探っています。でもこれだけでもとても難しく、大きなテーマとなっています。

−実際にどのような手法で研究されているのでしょうか?

今まで細胞に音を聴かせている人なんて誰もいなかったので最初はどうすればいいかわからず、とりあえず自腹でスピーカーを買ってきて、細胞に対して上から音を聴かせる、というのをやってみたんですね。

細胞自体はうちの研究室でたくさん培養しているので、それを使用して。それがもう2012年ごろの話ですね。

最初は自分の好きな音楽でやっていたんですけど、それでは恣意的すぎると思い「ラ」の音などの単一周波数の音や白色雑音(ホワイトノイズ)などに切り替えました。

また、同じ「ラ」の音でも、波形を変えてみたり強さ(音量)を変えてみたりして、様々な種類の音を細胞に当てて、何か起こらないかと手探りで研究を始めました。

−細胞と音波の関係を誰も研究していないというのは意外ですね。

そうですよね。怪しげな論文は2、3本あったのですが、ちゃんと科学的に信頼できるものは一切ありませんでした。僕は自分が音楽好きということもあって、なぜ科学者は細胞と音の関係を調べないんだろう、と学生の頃から思っていました。それを自分で始めたわけです。

ちなみに、超音波なら実施している人は結構いるんですけどね。超音波は耳で聞こえないくらい高い音ですが、物理的には耳で聞こえる音とは少し違っていて、キャビテーションという真空の泡を作ったりとか、桁違いに高いエネルギーを持っています。

超音波を当てることで、例えば骨折の回復が早くなるとか、医療に関連してそういう研究は進んでいます。実際に野球選手が超音波療法で骨折を早く治したという事例があったりとか。

僕はもともと「音楽を聴かせたワイン」というところからスタートしているのもあって、可聴域の音波で勝負してみようと思っています。超音波の研究はもちろん参考にはしていますが、研究の方向性や手法は一から自分で考えています。

−実際どのような結果が得られましたか?

最初の頃はほとんど意味のある結果が出ない状態が4年くらい続きました。趣味の研究として本来の研究の合間を縫って深夜とか週末にやっていたので細々としかできず、気付いたら4年くらいかかってしまって。

そうこうしているうちに着想コンテストや、また別の京大の研究費SPIRITS(融合チーム研究プロジェクト)、こちらは実際に研究を行うもので成果報告も求められるのですが、そういったプロジェクトによって支援してもらったりして、時間とお金を使えるようになってきたら結果が出てきたという感じです。

最初の結果としてまずは、実際に音に反応してはたらきを変える遺伝子が見つかった、ということですね。

遺伝子というのは人間には2万3千種類くらいあって、それらが適切にはたらくことで細胞がその機能を維持したり環境変化に対応したりしています。

その中で、圧力や引っ張る力などの物理的な刺激に反応することが既に知られている遺伝子に対して「音」にも反応するか調べたら、いくつかちゃんと反応するものがあることが分かったのが最初の結果です。

−まずは反応があった、と知れたことは大きな一歩ですね。

そうですね。今はそこからもう少し進んでいて、そういった遺伝子レベルでの応答が起きるということは、細胞レベルではどう反応するのか、という段階にあります。

今、特に着目していることの一つは「細胞分化」という細胞が他の細胞になろうとする能力に「音」が影響を与えられそうだということです。

具体的には、筋肉になるか骨になるかという選択肢を持っている細胞が音を与えられると、骨よりも筋肉に変わりがちということなどが分かってきています。

その理由は、まだはっきりとは分からないのですが、骨になるのに必要な遺伝子のはたらきが音によって抑えられるということは判明しています。

これでどれだけの人が納得してくれるか、という感じですけどね。2018年に最初の論文を一個だけ出したんですけど、それもとても苦労して。「そんなはずはない」や「馬鹿なこと言うな」みたいなことも結構言われます。

−細胞が音によって骨より筋肉になりやすい、というのはとても面白いですね!


>> 次頁「「生命とは何か」。「音」という視点から興味を追求する研究者としての姿勢。」

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter で[公式] ビックイヤーをフォローしよう!