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社会人インタビュー

「一つ宝石が見つかればいい」。教育と研究のあり方を、秋野教授に問う。

Writer|前田 彩友子
  • 読了目安時間:11分
  • 更新日:2020.4.13

アリ研究者の語る、研究の面白さ

-今、秋野先生はどのような研究をされているのですか?

中核はアリの研究です。アリは家族同士で仕事を分担しているんですが、大雑把にいうと、年寄り個体が危険が多い巣の外で働き、若い個体は安全な巣の中で働いています。年を取るにつれて危険な仕事に移り変わるんですが、その切り替えの仕組みなどを調べています。

おそらくアリ同士は互いの仕事を認識しているんですが、本当にそうなのか、どのようにして認識しているのか、その分担をどう制御しているのか、調べるべき謎はたくさんあります。

また、アリの巣の中に居候している生き物のことも調べています。中にはアリが蓄えた餌やアリの幼虫を食うやつもいるんです。そんな虫同士の関わり合いを研究しています。

他にも、サシガメという肉食性カメムシの中には、上手に共食いをしない仕組みを発達させて、集団生活をするものがいるんですが、その仕組みってどんなものなのか、化学的仕組みや生物学的意義をしらべる・・というようにアリ以外の生き物も研究対象にしています。

変り種としては、文化シリーズですね。奈良県にある大神神社の摂社で催行される三枝祭(さいくさのまつり)は、1200年以上も続く神事で、御神花としてササユリを奉納するんですが、なぜササユリなのか、それを化学的に解き明かそうと。

ササユリの花香は静菌効果を持つんですが、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈する日暮れ頃にその花香量がふえるんです。たぶん、昔の人は病を運んでくる邪霊をササユリが防いでくれると思ったのでしょう。そんなことも調べてます。

-そこから何か新しい商品を開発するという応用研究はされたのですか?

ササユリに関しては化学的な解明をしたところまでですね。基本スタンスは、科学的な解明を主に、応用に繋げられる信頼できる素材提供をめざして研究をしています。

もちろん、それが害虫防除や健康増進につながるような場合は、積極的に関連企業との連携で商品化に役立つような研究に展開していくこともあります。

-なるほど。主に生物の研究をされていますが、どうやってこの研究者の道に入ったのですか?

生き物の行動や生態に関わる仕事がしたいと思っていたので、修士2回生で就活をして環境アセスメント関係の会社から内定をもらいました。ただ、当時はバブル景気真っ只中だったので、まだもう少しアリの研究を続けてみようと博士課程に進んでしまったんですね。

そしたら、バブルが弾けて、就職氷河期がスタート。「あちゃ・・」と思いました(笑)といいながらもアリの研究は面白いし、大学には9年居座ったので外に出たい、けれども企業で虫の行動や生態の研究を続けるのは難しい―ということで、公務員試験を受けて農林水産省の研究所に就職しました。10年ちょいちょい、そこで研究をしていたんですよ。

カミキリムシやコガネムシの防除、農業害虫は盛りだくさんでした。やるべきことは山積みで、アリの研究にはあまり時間をさけなかったですね。そんな折、工繊大に戻る機会が訪れたので、エイヤと研究所を離れて大学に戻ってきたのです。

そもそも学部生の時は、鳥の研究がしたいと思っていたんだけど、卒研を指導してくれた先生が「鶏は食べられるけど、鳥では食べていけない。虫なら食べていけるよ」とおっしゃっていた。それで気づいたらアリの研究に手を染めて・・・かれこれ30年。

-なぜ、虫の研究は食べていけると思ったのですか?

蚕やミツバチは有用な虫ですが、もっと数多くの害虫がいるからです。特に、農業害虫は農作物を食い散らかしますので、ヒトは戦い続けなけれならない相手なんです。昆虫は100万種以上いて、そのいずれもが下手をすると害虫になってしまうから、人手はいくらあっても事足りない。

その種毎に生態も性質も違うから、それに応じてこちらもあの手この手を講じないといけない。ネタは尽きません。なにより、多様性に富んでいるから、その生き様自体がやはり面白いですね。

害虫防除法の一つとして、その虫のフェロモンを使うことがあるんですけど、このフェロモンの構造を特定するのは本当に苦労するんですよ。DNAと違ってPCR(DNA配列上の特定の配列を増殖する方法)で増やしたりできない。

虫の方も1年に1回しか現れないのもいる。屋内試験をやって、化学試験をして、野外試験をして、うまくいかなければ1年待って・・で、解明までに10年以上かかったものもる。でも、そんな相手が、仕掛けた合成物質にコロッと集まってくると、これは至極の喜びです。やめられまへん(笑)

-そうなんですね。修士でアリの研究をされていて、今もアリの研究をされていますが、なぜアリの研究を続けているのですか?

大学院はよその大学も受けた口です。ずっと鳥を研究したいと思ってたんですが、話を聞きに行ってカメムシの魅力のとりこになって、大阪市立大のとあるラボを受けたんです。同じぐらい、工繊大のアリ研究にも魅かれて、どっちのラボに行くか迷っていました。運命の分岐点ですね。

アリを選んだのは、大学を出てしまうと簡単には触れなさそうな分析装置がたくさんあったからです。こういうのって、そういうのがあるところでしかできない研究だ、というのが理由です。

これが、アリ中毒になってしまったきっかけですかね。


>> 次頁「「まぁいいか。」と思えることも必要な、「研究者」の世界」

 

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