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社会人インタビュー

「一つ宝石が見つかればいい」。教育と研究のあり方を、秋野教授に問う。

Writer|前田 彩友子
  • 読了目安時間:11分
  • 更新日:2020.4.13

「まぁいいか。」と思えることも必要な、「研究者」の世界

-アリ地獄にハマってしまったのですね。先生はこのような経緯で研究者の道を突き進まれたのですが、迷いや不安といったものはなかったんでしょうか?

当時は、応用生物学科が1学年48名で、半分が進学、半分が就職でした。ほとんどは修士を出ると企業に就職で、博士課程に行くのは稀でしたね。ただ、同学年は4人も博士に進学したんですよ。「まぁいっか。何とかなるさっ」と思える楽天家が多かったんですね。

今は修士への進学率が高くなって、博士課程を進める風潮も強いのでハードルも下がっていますが、いざその時には、まぁいっか、と思える人でないと後悔するかもしれません。

-なぜ、博士課程に行くと、先行きが見えなくなるのですか?

企業は、基本的に素地ができてはいるものの、中で鍛えたらいろんな形に成形できる熱い鉄みたいな人を望んでいます。ドクターをとった人は、その道のプロであるがゆえに、プライドが高くて企業にとっては扱いにくいんです。

海外の企業では、博士号を持っている人を専門家として迎え入れますが、日本の中小企業ではプライドばかり高いよりも実力者で現場で動ける人を好むんだろうと思いますよ。

僕らの頃も、ドクターをとっても企業ではなかなか引き取り手がないので、国の研究機関に行ったり、そのまま大学に居残ったりしていたんです。でも今は景気が悪くて、国の研究機関も研究者をそんなに次々と採用できない。

若者が減っているから、大学でも教員を減らすことはあってもなかなか採用しない。結局ドクターをとっても落ち着く先がないんです。

文科省は人材の流動性を高める仕組みとして、ポスドク(博士研究員)では、博士号を取得した研究室以外のラボに行くべし・・としたんです。

確かに流動性は多少高まったかもしれないけど、結局そこに出口(ポスト)がないので、進学後の不安解消にはならない。なので、「まぁいっか。」と思って楽しめるタイプの人でないと大変なんです。

-研究者の方は不確実性がそこにあるものだということを理解できる方が多いんですね。

今、日本の科学が危機に瀕している原因のひとつとして、なにか成果を出すことや、研究をすぐさま産業(商用での利用)に結びつけることを要求されるという点が挙げられます。

だから、「どんな利益があるか分からない研究(不確実性のある研究)をするのは困る。」と要求されるわけですが、ノーベル賞をとってきた先生たちだって、基礎研究を開始した時は、「あの人何しているんだろう。」と思われてきた人が多いと思います。

大学というのは、宝石になるのも、ただの石ころもごろごろしているところで、その中で「一つ宝石が見つかればいい」という時代の方が将来に繋がる研究ができていたと思います。

今は、最初から全部が宝石になれと言われているので、そういうプレッシャーを教員のみならず、学生の方も感じているんじゃないでしょうか。

だからと言って、学部4回生の卒業研究ですごいことをしようと思わなくていいんですよ。研究のプロセスをしっかり身につけるだとか、既にわかっていることでも、自分ですごく面白くてのめり込んで、「先行研究と同じことを証明できた!」というのでもいいんです。

-先生はこの先どんな研究をされる予定ですか?

最近新しく入会した「人間植物関係学会」という学会に初めて出席したんです。栽培目的以外で人々が植物を楽しむのはなぜか、そこにある根源的なものを探求しようという会です。

具体的にいうと、生き物を育てる時、人間はそこから元気をもらっているという話があって、それを科学的にデータをとって科学的な裏付けをしようという研究があります。最近よく聞くアニマルセラピーとか、うちだと昆虫を扱っているからインセクトセラピーとか(笑) 

生き物に触れると心和む・・というところを科学的に検証していこう、と思っています。 もちろんアリも続けますよ。

-ありがとうございました!秋野先生の今後のご活躍を期待しています。

 

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