社会人インタビュー
音楽でワインが美味しくなる?京大の若手研究者が音と生命の関係を切り開く。
Writer|細辻 あおい |
- 読了目安時間:10分
- 更新日:2019.3.6
京都大学大学院 生命科学研究科 分子情報解析学分野 助教 粂田 昌宏(くめた まさひろ)。音楽を聴かせたワインをきっかけに「音波」と「細胞」の関係に着目した研究に従事。「京大変人講座」というイベントで講演するなど、現在注目されている若手研究者にその研究内容や研究職への想いを伺いました。
生物学に音響工学、醸造学やソムリエまで、分野を超えた研究プロジェクト。
-本日はお忙しい中お時間いただきありがとうございます。先日の「京大変人講座」でも講演されていた「ワインはモーツァルトを楽しむか?」という研究はどのようなものなのでしょうか?
音楽を聴かせて熟成したワインというものがあります。普通に販売されている商品で、発酵の過程でモーツァルトなどの音楽を聴かせることにより、味がまろやかになったりバランスが整ったりするそうです。
面白いと思いませんか?こういうことが本当に起こるのかどうか、起こるとすればどういう仕組みによるものか、それを知りたいというのがこの研究の最初の着想です。
研究にあたっていろいろな音楽を聴かせた食品を調べてみると、ワインの他にもビール・焼酎・味噌・醤油など、全てが発酵食品であることに気付きました。そこで、酵母や乳酸菌といった単細胞の発酵微生物が、音楽に反応してその活動を変化させているのではないかと考えました。
こういった音楽熟成食品は、なぜかほとんどが音楽としてモーツァルトを使っているので変人講座のタイトルにはモーツァルトとつけたのですが、研究していること自体は「細胞はそれ自体で音に反応するか」ということです。
この研究は僕がもともとやっている研究ではなく、本来の研究の傍ら趣味でやっていたものなのですが、2016年に京大の「学際融合研究着想コンテスト」で優秀賞をもらったりして、今はそれなりの時間と労力を使って研究を進めています。
-「学際融合研究着想コンテスト」とはどのようなものなのでしょうか?
このコンテストは、色々な異分野を融合してどんな面白い研究ができるか、ということを競うものですね。「着想」コンテストなので、そのアイデア自体の面白さで勝負するというか。
例えば、「人にはなぜ尻尾がないか」とか、「人の鼻はなぜこんな形か」とかですね。それを、いろんな分野からどういう風に攻めていったら面白くなるか、というのを競います。だから実際にその研究をやらなくても提案だけでいいんです。
京大の他のプログラムである「SPEC(京大生チャレンジコンテスト)」や「おもろチャレンジ」と比べて、より実際に研究している人向け、という感じですね。着想コンテストも学生でも出せるので、何かアイデアがあればやってみてはいかがですか?
-面白そうですね!先生のプロジェクトについて概要を教えていただけますか?
着想コンテストでのタイトルは「ヒトはなぜワインに音楽を聴かせるのか」というものでした。
プロジェクト自体は二本立てになっていて、一つは「生命と音との根源的な関係」を調べること。僕のやっていることはその一部で、細胞とかあるいは微生物レベルのものが音に反応するかどうかを調べます。
もう一つは音楽であること、しかもそれがモーツァルトであることに着目して、「人間と音楽との関わり」の中から、音楽を聴かせたワインというものを調べてみようというアプローチです。
音楽というものが社会でどのような位置付けになっているかということや、微生物に音楽を聴かせるという人間の行為の意味などを考えようというものです。
異分野連携メンバーということで、僕のような生命系や医薬系と、音響工学、醸造学、心理学、フレンチシェフかつソムリエでもある方でコンテストに臨みました。
−本当に異分野ですね。例えば醸造学やソムリエの方はどのようにプロジェクトに関わられたのでしょうか?
醸造学はこのトピックに対してドンピシャで必要なものなのですが、醸造って少しの刺激や条件で結果がコロッと変わるんです。すごく難しく繊細なものだそうで。
メンバーである醸造学の先生のところで学生の醸造実習というものもされているんですけど、例えば学生が10人いたとして、同じボトルと同じ材料、同じ酵母を用意して一斉にワインを作らせると、出来たワインの味が全然違うそうなんです。
全然飲めないようなまずいものから、そこそこ美味しいのになる人もいる。ほんの少しの環境の差でガラッと変わるんですね。その影響を与える要因となるものが多分ありすぎるくらいありすぎて。
だから実際の醸造では追求しきれそうにないのでシンプルなもの、例えば3〜4種類の微生物の競合環境というものを作って「音」という刺激がその競合関係に影響を与えるか、というものを調べようと計画しています。
また、ソムリエの人は昔からお世話になっている方で、味覚や食文化のプロとして、研究者では思いつかないようなアイデアをたくさんいただきました。プロジェクトに研究者以外の視点も含めることで、様々な立場の人から興味を持ってもらえる内容になったと思います。
コンテストでは、おそらく眉唾ものと思われた審査員もいて評価は割れたと思うのですが、優秀賞をいただくことができ、研究を進めていく大きなきっかけと自信になりました。
>> 次頁「音を聴かせると細胞が筋肉になりやすい!?全く新しい分野の研究をするということ。」
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