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極限の地“アラスカ”での挑戦。京大理学部生が追いかける「オーロラの音」。《前編》
Writer|木原 弘貴 |
- 読了目安時間:12分
- 更新日:2018.1.17
クリプトクロムが持つ、オーロラの音を解明する可能性。
-では、アラスカでの観測結果から見えてきたことを教えてください。
天羽さん 強調したいのが、僕たちの研究はまだ終わっておらず、それどころか、「これから始まる段階である」と言うことです。これから実際に、クリプトクロムに電磁波を当てるという研究を行っていくんですけど、その際に必要な電磁波のデータが測定できたのが1つの成果ですね。
また、今現在、オーロラの音に関する仮説は、クリプトクロムが関与するもの以外にも数多くのものが提唱されています。
そして、その多くの仮説の全てが、未だに証明がされていません。自分たちが科学的根拠に乏しいと思う仮説を「反証するために必要なデータ」すらありませんでした。そのため、自分たちではそれらの仮説の反証も難しいと思っていたものもありました。
しかし、今回のアラスカで自分たちの測定したデータを用いることで、それらの仮説を自分たちの測定したデータを用いて証明することは、不可能であると解析しました。
また、フィンランドのオール大学にライネ名誉教授という方がおられるんですね。彼はオーロラの音を専門にされている方で、「世界で唯一オーロラの音の録音に成功した」と主張されている方なんですよ。
私たちは帰国後に彼にメールで「貴方がフィンランドで録音に成功した音を聞かせて欲しい」と伝えたところ、幸運にもその録音した音を送ってもらえました。みんなで送られて来たその音を聞いてみると、僕以外の三人が「どこか聞き覚えのある音だ」と言ってくれました。
僕も、自分たちの観測した音源とライネ教授から送られて来た音源とを比較したところ、これは似てるなと思いました。
どのような音かと言いますと、銃声のようなパーン・パーン・パーンという音なんですね。これから、自分たちの記録した音源と彼から送られてきた音源のシグナルとが、どれだけ似ているかを解析していきたいなと考えており、(ライネ教授の録音出来たオーロラの音と思われる音と)比較を行うためのサンプルのデータが得られたことも成果の一つです。
司さん あと、クリプトクロムが仮にオーロラの音を聞くためのメカニズムの一端だったとしても、そのクリプトクロムがオーロラの音を聞くために我々の脳に装備されているわけではないんですよね。
とすると、もともと別の目的があって、たまたまオーロラが発する電磁波などによって音として感知することが出来ていると仮定出来ます。じゃあ元々クリプトクロムは何の役割があったのか?
僕は、そこをこれから調べていくつもりです。
そもそも、クリプトクロムという名前はギリシャ語で「よくわからん(隠れた)色素」という意味なんですよ。昔からよくわからないタンパク質でして、そこを解明していきたいなと。
-クリプトクロムに関してもう少し詳しく教えてもらえますか?
司さん 実はかなり多くの動物がクリプトクロムを持っていて、それこそ植物も持っているんですよ。動物と言っても人間のような脊椎動物をはじめ、昆虫も持っているんですよ。
この間、学会で聞いたのはミジンコもそれを持っているとのことです。このようにかなり多くの生き物が持っているんですね。それぞれ多様な機能を持っていると近年解明されてきているんです。
例えば、渡り鳥のクリプトクロムは地磁気に反応することができ、それを利用して彼らは方角を認知し、渡りを行なっていることが解明されています。また、植物は青色の光があるかないかを判断しているとされています。
まぁ、今クリプトクロムって少し流行りになっていまして。今年のノーベル生理医学賞で体内時計に関するメカニズムを解明したとなっていたと思うんですが、そのメカニズムに関わっているタンパク質が「ピリオド」というタンパク質なんですけど。
このピリオドはクリプトクロムと結合するんですよね。実は昆虫ではクリプトクロムが体内時計を動かすマシーンになっています。ただ、まだ人のクリプトクロムは何をやっているのかわからないという段階です。
-詳しく教えていだたきありがとうございます。「資金援助を受け、研究を行う」ことに対して感じたことを教えてください。
司さん もちろん皆さまから寄付を募るので、成果を出したいと思ってはおります。また京都大学がSPECを公募した意図は「学生にチャレンジをさせる」ということだと理解しています。
藤田さん 先日、司と私はSPECの公募で通過した人たちが研究成果を発表する、採択者発表会に行って来ました。その発表会で山極総長とお話しさせていただく機会がありました。
山極総長が私たちに「君たちが提唱する仮説が正しくなくても気にすることないんだ。研究を続けていく中で新しいことが見えて来たり、予期せぬ結果も生じると思う。そのような新しい発見を大事に研究を続けて行きなさい」とおっしゃっていただいて、気が楽になりました。
また、山極総長には私たちの研究に対して物理を専攻している学生と生物を専攻している学生が一緒に研究していることを高く評価していただけました。
司さん SPECは「このような研究を行うのでいくらの額を下さい」というプロジェクト型の研究ではありますが、会計報告も原則必要ありません。
そのため自分たちが研究途中に当初とは異なるアイディアを思いつき、研究の方向性を変える必要があると感じた時、柔軟に研究の方向性を変えることが可能なんですね。それに伴ってお金の使い方の変更も可能になっています。
大学研究の多くは、研究を実施する前に方向性を確定させる必要があります。それに比べると研究途中に研究の方向性を変えられることは自分たちが求めている成果をあげやすいとは言えると思います。
藤田さん 個人的にはお金をもらったから研究を頑張らないといけないという使命感よりむしろ、純粋に「オーロラの音に関する謎を解明したい」という思いで研究を行なっていますね。
司さん (集まった寄付金は)自分たちのポケットマネーにはなりませんしね。ただお金がないと研究ができないという側面があります。
お金という観点で言いますと、おもろチャレンジとSPECからいただいたお金に加えて、京都大学ウイルス研究所進化ウイルス研究領域宮沢孝幸研究室からも実験機材や実験設備、実験場所等の支援をしていただいています。研究室の方々にも興味を持っていただけて、協力していただいています。
-学生の知的好奇心に対してフットワーク軽く、積極的に助力してくださっている印象を強く受けました。「研究室を横断して支援をする」というのは理学部ならではの特徴なのでしょうか?
天羽さん 理系の中でも理論を専攻する学生が多い理学部において学生と教授との関係はとてもフラットであるように感じます。
その例を挙げますと、学生が教授のことを先生と呼ぶことを禁止されていることが多いんですね。学生は教授のことを〇〇先生ではなく、〇〇さんと呼ぶ風習があります。
先生たちは、「科学の元では学生と自分たちは対等であるので、対等な関係で議論すべきである」と考えておられるようです。
司さん 京大理学部の古い伝統だよね。
後編に続きます。後編は更なる理学部の特徴やアカデミアの世界で勝負する難しさ、みなさんの今後の展望などをお送りして行きます。
後編はこちら
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Follow @bicyear京都大学経済学部2年生(大阪出身)。鳥類研究者のような写真になっていますが、経済学部の学生です。よろしくお願いします。
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