社会人インタビュー
クレヨンからプラズマへ!?サクラクレパスが京大で進めるプラズマ研究の謎に迫る。
Writer|遠藤 季夏 |
- 読了目安時間:14分
- 更新日:2018.6.19
「色でお客様に貢献する」というサクラクレパスの想い。
-プラズマ加工は至る所で使われているんですね。そして、それを支えるのが「プラズマインジケータ」だと。
目見田課長 プラズマの処理自体が、プラズマ装置を覗いてもぼんやりと青く光っているだけというような目に見えないものなんですよね。
だから、どれほど当たっているのか、当たり方にどんな”ムラ”があるのかといったところが、処理している段階では全くわからない。
処理中に判別する方法としては、ラングミュアプローブという金属の棒を装置に入れて電子密度を測るというのが従来の方法なんですが、細いプローブの先の一点でしか測れないので、その部分の電子密度はわかるんですが、そのちょっと横、1センチ横はどうなのと言われるとわからない。
-全部の箇所にいちいちプローブを入れてチェックなんてできないですしね。
目見田課長 そうですね。しかし、電子部品のICやLEDを作る時にそういった処理の工程のムラがあると、特性がバラついてしまうという問題がありますので、お客様は安定したプラズマ処理をしたいわけです。
理想は装置内のどこにあっても同じようにプラズマが当たっている状態なんですが、装置の構造などからいってもこれがなかなか難しいんですよ。
そこで我々のインジケータを使うと、「面で変色」しますのでプラズマの強弱・時間でそれぞれ強く・長く当たっているところは色が濃くなっていく、もしくは色がなくなっていって、その色のグラデーションを見ることで間接的にプラズマがどういった状態かを把握できるんです。
ですから、色でプラズマ加工を見える化していきましょう、というのがコンセプトになっております。
-「色」で、というのがサクラクレパスらしいですね!はじまりが画材メーカーであるからこそのこだわりというのもあるんでしょうか。
目見田課長 我々は「we are coloring the future – 心のある色を通じて教育・文化に貢献する」というのを理念として掲げていまして、会社として色にこだわりたいと考えております。
弊社は2021年で100周年を迎えるんですけれども、クレパス・色鉛筆・クーピーなど色々ある中で、全て色にこだわってきました。その延長線上として、全ての開発においてこれからも色にこだわりたいと。
プラズマインジケータも、色でお客様に貢献していきたいというバックグラウンドがあります。完全に新規の技術であり、全く文具とは違うんですけれどね。
-企業理念で一貫されていたんですね。でも、そんな新しい分野でやっていくのは、チャレンジングですよね。
目見田課長 色のもとになる顔料だったりとか染料だったりとか、そういったところの活用というのは、やっぱり一番に考えていきたいんですけれど、正直なところ、従来の技術だけではうまくいかない部分は多々出てきます。
でも、染料・顔料ではないところでも色は変わるんですよ。金属って錆びると色が変わりますよね。そういったところも活用しながらやっています。
大城課長 色作りの観点で言うと、インジケータをやりはじめた40年くらい前からあまり変わっていないと言うか、一貫しているんですね。現物でいうとこういう感じです。
写真:インジケーター(ナンバー1シリーズ)
-この小さなインジケータの丸い部分の色が変わるんですね。これを装置の中にいくつか入れて、それぞれの色の変わり具合でそれぞれの場所にどれだけプラズマが当たっているのかを調べる、ということですか?
目見田課長 そうですね。京大桂ベンチャープラザ(京大桂研究センター)で開発しているのは、シリコンウエハそのものに、変色する色材を塗ってしまうというものです。これだと、ウエハの形はそのままになりますよね。
写真:ウエハ型インジケータ
※4インチのシリコンウエハに色材を乗せて、左半分がプラズマを当てたもの。左半分だけ色が変わっている。
目見田課長 シリコンウエハの上にこういった白い膜をつけて、プラズマを当てると、このように色が変わるんですね。
これは酸素を当てたものなので茶色になっています。フッ素なんかを当ててもそうですね。比べて、物理的に分子で叩いて削っていくようなプラズマ加工で使われるアルゴンだとかを当てると、還元作用で黒くなったりします。使うガスによって色々な色が出てくるんですよ。
大城課長 これは半分を完全に隠してしまっているので極端な対比になっていますが、実際はもっとグラデーションになって、当たり具合がわかるという仕組みです。
-酸化やフッ素化、還元反応など、どんな反応をするかによって出てくる色も変わり、グラデーションで当たり具合を把握できるというのが独自性なんですね。
目見田課長 今までプラズマ装置の評価をする方法が、電子密度を測るプローブ、もしくは、実際にエッチングした量を測るというものしかなかったんですよ。
どうしてもプローブだと一点でしか測れませんし、エッチング量の測定という方法でも、表面に膜をつけたサンプルを装置に一緒に入れて膜が落ちた量を細かい顕微鏡で測ったり、エッチングをすると親水性が上がるという特性を活かして、水滴を垂らした時の接触角を測ったりする手法があったんですが、結局手間がかかったり、一点でしか見られなかったりで。
でも、このウエハ型なら、装置に一緒に入れて、ウエハ面の色の分布を見ればいいだけですので、とても楽ですし、面で見られますよね。
-画期的ですね。現在、シェアはどれくらいになっているんですか。
大城課長 この製品を売り始めたのが2014年の冬からですので、もうすぐ4年になるんですけれども、主要な半導体メーカーさん、デバイスメーカーさんで採用いただいています。
各社、やはり採用のハードルが結構高く、事前のデータ集めに時間がかかるんですよ。ですので、導入には半年〜1年ほどかかるんですけれど、その期間を経て、工場で使っていただけるようになってきています。
また、もともとは日本のメーカーさん向けということで販売を始めたんですけど、去年くらいから海外展開も始めまして、韓国や台湾でも使っていただいています。
-確かに、韓国や台湾には有名な半導体、デバイスメーカーもありますし、日本よりマーケットが大きいですよね。
大城課長 そうなんですよ。これからは特に中国を狙っていきたいなと思っています。日本には、何十年と稼働している工場が多くて、切り替えるとかなりの額になってしまうということと、ちょうど日本経済の体力が落ちているということがあって、投資がしにくいんですよね。
逆に、中国は国策で工場をどんどん建てて、最新鋭の装置もどんどん入れて行っていますので、今後期待のできるマーケットです。
-実際に市場に導入してみて見えた課題はありますか。
大城課長 やっぱりこの分野はすごい勉強が必要になりますよね。新分野ですから。当たり前なんですけど、最初はそこが難しかったですね。
あと、色で簡単に見えるというのは非常に画期的で新しいんですけれど、逆に今までの方法と違いすぎて、発想は認めてもらえても、実際に使ってみてもらうまで理解していただけなかったりもしました。
-なるほど。御社の「クレパス」って、ずっとロングセラー商品ですよね。だから、このような攻めに入った研究とかはしないのかなと思っていたんですが、そうでもないんですね。
目見田課長 確かに知名度で言ったらすごいとは感じるんですけど、「大人になってからクレパスって使われてますか?」「色鉛筆使っていますか?」って質問をすると、使っていただいている方って相当少ないんですよね。
幼稚園・小学生に入る時に、親御さんやおじいさんおばあさんから買っていただくものとして、サクラクレパスを選んでいただくということは非常に多いんですけれど、今の時勢、少子化が進んでいますので、どんどん子どもの数が少なくなってきていて、市場が縮まっているじゃないですか。
もちろん子ども向け商品の市場は縮小するばかり、と決めつけないようにはしていますが、会社として成長していくには違う分野でも頑張らないといけないと。
-既存技術の他分野への転用というと富士フイルムのアスタリフトみたいですね。
大城課長 フイルムから化粧品というのもすごいですが、実は富士フイルムは色素とも関係があって、圧力で色が変わるものも作っているんですよ。
それってすごくニッチなんですけれど、工業分野では他に誰もやっていないので、オンリーワンなんです。我々もそのようなオンリーワンを目指しているんですよね。
-将来的に、文具業界からエレクトロニクス業界に移って行くというイメージでしょうか。
目見田課長 文具部門を超えるレベルに成長すればもちろんいいですけれど、文具部門は弊社の「本当の軸」ですので、それをなくしてサクラはありえないと思います。文具部門を補完する形でプラズマインジケータの事業が成長すればいいなと思います。
-こちらで研究をされていて、京大桂ベンチャープラザの良さを感じることはありますか。
目見田課長 そうですね。各事業部門に与えられた任務がありまして、その中でここの京大桂研究センターは産学連携で、外に向いた技術連携を進めるというのが使命なんです。
そこでこの京大桂ベンチャープラザに入ったんですけれど、各企業さん、新規の開発が基本なので横のつながりがあって情報共有ができるのはとてもいいですね。
なおかつ、こちらのインキュベーターさんが非常に親身になって「何か困っていませんか?なんでも紹介しますから繋ぎますよ!」と言ってくれるので、環境的にも非常にやりやすいです。
-研究において、教授との繋がりもあるんですか。
目見田課長 ありますね。さらには、先生と先生とのつながりというのもあって「これならあの先生に聞いたらいいよ」なんて紹介してもらったりして。
山形とか、とても遠いところに飛んでいくこともあるんですけど(笑) 研究されてる先生は本当にたくさんいますから、そういう意味でもいい拠点ですね。
>> 次頁「「プラズマあるところに、サクラクレパスあり。」という未来へ。」
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