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好きだからこそ命を奪う。“京大院生×ハンター”古賀達也に、狩猟と森林の現実について伺う。
Writer|川野 紗季 |
- 読了目安時間:7分
- 更新日:2019.6.26
約92%の“捨てられるだけの命”をしっかり使い切れる体制に。
-私にとっては感情と行動が相反しているように思えるので驚きです。ちなみに狩ったシカはどうしているんでしょうか。
もちろん、狩ったシカは自分で血抜きなどの処理をして食べています。食べるために狩っているので。
-食べるために狩っているんですか。大好きなシカを食べることに抵抗はないですか?
食べないのであれば獲らないです。僕が最も大切にしている考え方の一つに「殺すことは同化」というものがあります。これは先ほどの村上龍の小説の一文なのですが、殺して食べることは生態系の循環の一部でしかなく、食べたら自分の体の一部になる、ということです。
だから自分の体はシカで成り立っていると思うし、それがシカにとってかわいそうといったことはあまり考えていません。シカを愛する者として、狩猟したシカの命をしっかり使い切りたい、という気持ちが大きいです。
一方で、日本全国で狩猟されたシカの約92%が狩猟されるだけされて捨てられているという現実があります。この状態をなんとか改善しようと、今はシカ肉の資源利用化の研究をしています。
-どうして92%が捨てられてしまうほど、シカが狩猟されているのでしょうか。
シカはここ20年で頭数が10倍にまで増大しています。なので、この数を統制するために狩猟するしかないんです。
-そんなに個体数が増えているのにはどんな原因があるのでしょうか。
はっきりとしているわけではないのですが、この理由として、先程も述べた通り、シカはそもそも毎年1.2倍ずつ個体数が増えるんです。それは種のシステムとして、狼に捕食されたり、人間に狩猟されたり、冬の厳しい寒さといった理由で生存率が低かったので、たくさん殺されても生き残っていけるように繁殖力が高くなっているからです。
しかし今は狼も絶滅し、狩猟する人も減って、鹿の個体数を抑制できなくなった、 かつ、温暖化が進んでいるので冬も暖くなり小雪化 し、森林の植物も豊富で繁殖しやすい環境が整っているんですよね。
-シカの個体数が増えたことで具体的にどんな問題点があるのでしょうか。
森の植物を食い荒らされたり、農業や林業に被害が出ます。こういった被害は全国的に起きていて、毎年被害額は200億円まで登り、この被害額は例えると去年の台風21号が3日に1回きているのと同じ計算なんです。去年の台風21号は、京都駅ビルの天井のガラスが割れるほど強烈だったので記憶にも新しいと思います。
-シカはそんなに甚大な被害をもたらすんですね…だから狩猟するしかないんですね。
その対策として政府主導で捕獲数はかなり拡大したんですが、今はまだその捕獲されたシカ肉を利用するシステムが出来上がっていないんです。飼われている牛や豚のように殺してすぐ加工できるわけでもなく、山でいつどれだけ獲れるかもわからないので供給体制が整っていません。
それに加えて最大の問題は、『ジビエ(狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉)』と聞くと、「臭い」「まずい」「固そう」といったイメージが強く謙遜されがちで、消費者の需要もまだまだなんです。
それに今猟友会にいる人は40代でも若いと言われるほど、平均年齢がかなり高いです。その人たちがいなくなって狩猟する人が本格的にいなくなってきたらどうするんだって話ですよね。
>> 次頁「プロジビエハンター制度を含む、3つの制度で変革を。」
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