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社会人インタビュー

昆虫に倣え!?学問の際(きわ)で奮闘する、若手研究者が見据える次世代ロボットビジョン。

Writer|ビックイヤー編集部 Writer|ビックイヤー編集部
  • 読了目安時間:11分
  • 更新日:2019.1.15

大阪工業大学 情報科学部 コンピュータ科学科 講師 奥野弘嗣(おくのひろつぐ)。生体の視覚に学んだ視覚システムの研究に従事。昨年12月に放送されたサンテレビ「しごとびと」でも紹介され、大手自動車メーカーからも共同研究の打診がある若手研究者に、次世代のロボットビジョンについてお話をお伺いしました。

既存システムは昆虫の1,000万倍、非効率!?

-この度はお時間を頂き、誠にありがとうございます。早速ではありますが、奥野先生の研究内容からお伺いしてもよろしいでしょうか。

はい、神経模倣と言われる研究分野に属するのですが、『生体視覚を模倣した視覚システムを作りあげること』をテーマに研究しています。

-生体、つまり生き物の視覚を模倣する、ということですか。

そうです。

例えば人がこの部屋の空間認識を行う際、目から入ってくる全ての情報、デジタル画像における各ピクセルのRGB値のような情報をそのまま脳で処理し、この空間を認識しているわけではなく、目に入ってくる情報の中でも重要な情報だけに絞って脳で処理し、空間を認識しています。

-重要な情報とは具体的にはどういった情報なのでしょうか。

主に物体の輪郭や動きに関する情報です。特に動きに関する情報の重要度は高く設定されているようです。これは、動く物体は捕食者の可能性もありますから、生き延びるためにも重要度が高く設定されているのだと思います。

-なるほど。

逆に言えば、それ以外の情報は大胆に捨てられています。それでも生き物は問題なく空間認識ができています。

一方、これまで人間が作りあげてきた人工的な視覚システムは、基本的にカメラなどで取得した映像情報のすべてを対象に処理を行います。

極端な話、壁のシミ1つも処理の対象になります。そのため処理しなければならない情報量が膨大となり、リアルタイムでの空間認識が可能な視覚システムを構築しようとすると、膨大なマシンパワーが必要になります。

-既存の人工的な視覚システムは、膨大な入力情報をそのまま力業で処理しようとしているのに対して、人間を含む生き物はもっとスマートに情報を処理している、ということですか。

その通りです。

例えば昆虫は数10μW(マイクロワット)相当のエネルギー消費で視覚情報を処理していると言われていますが、同じような視覚情報の処理システムを人工的に構築すると、現在の技術では数100Wオーダーの電力を必要とするシステムになってしまいます。

これは昆虫に比べ、実に1,000万倍もエネルギーを余計に消費している計算になります。

-昆虫の1,000万倍ですか。それは大きな差ですね。

生体視覚のメカニズムを解明し、応用することが出来るようになれば、昆虫とまではいかないまでも、より小型かつ、低消費電力な視覚システムを作りあげることが可能になりますので、特に電源の確保が難しい自律移動型のロボットの目、いわゆるロボットビジョンでの活躍が期待されています。

-ロボットビジョンと聞くと、近年では自動運転車での活用を想起します。

実際に、ある自動車メーカー様より共同研究の打診があります。ただ現在、話題になっている2025年を目標とした高速道路の運転自動化ではなく、もっと先を見据えた取り組みになりそうです。

-既に自動車メーカーも注目しているんですね。現時点ではどのような研究成果が出ているのでしょうか。

まず、私の研究室ではこのテーマを大きく4つの子テーマに分け、それぞれで研究を進めています。

1つ目は『両眼立体視の視覚システム』、2つ目は『色恒常性を持った視覚システム』、3つ目は『動作認識を行う視覚システム』、最後に『ドローンの自動制御』となります。

この中で2つ目の『色恒常性を持った視覚システム』は実用に近いレベルまで研究が進んでいると思います。

-それはどういったシステムなのでしょうか。

まず、色恒常性とは照明光の条件が変わっても、その照明光の色に引きずられることなく、同じ物体は安定して同じ色として知覚される現象のことを指します。例えば、人は赤いリンゴを青い照明の下で見てもそのリンゴを赤く感じられます。
(色恒常性を持った視覚システムの実験風景)

私たちが作りあげたシステムは人と同じく、赤いリンゴを青い照明の下で見ても赤色と認識できます。

-照明光による見え方の違いをシステム側で吸収できる、ということですね。

はい、そうです。これにより、ロバスト性(外的要因による変化を内部で阻止する仕組みや性質)の高い視覚システムを構築することが出来るようになりました。

-1つ気になったのですが、『ドローンの自動制御』は他の研究テーマと少し毛色が違うように感じられるのですが。

このテーマは他の研究テーマの成果を、外部の人に分かりやすくデモンストレーションするために研究しています。

先ほどお話した通り、生体視覚を模倣するメリットとして、小型化・低消費電力化があるのですが、それをデモンストレーションするのに最適なデバイスが現時点ではドローンだったので、ドローンの自動制御も研究しています。


>> 次頁「生き物の世界と電子工学の世界、実は共通点も多い!?」

 

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