社会人インタビュー
かるた名人×頭脳王×首席合格者。後輩が訊ねる「粂原 圭太郎の全て」。(後編)
Writer|木原 弘貴 |
- 読了目安時間:13分
- 更新日:2019.4.26
粂原 圭太郎(くめはら けいたろう)、京都大学経済学部卒業。学習塾「粂原学園」代表。第65期名人決定戦で初のかるた名人位を獲得。頭脳王やさんまの東大方程式などのテレビ出演に加え、執筆活動も行なっている。後編では「かるた名人」の一面に迫る!(前編はこちら)
現代の周防名人が語る『かるたの魅力』とは?
-前回に引き続き、宜しくお願いします。ここからは競技かるたの話題に移りたいと思います。 まず、粂原さんが競技かるたを始められたのは、いつ頃からなのでしょうか?
小学校5年生の頃からです。
-そんな早くからだったんですね。始められたきっかけは何だったのでしょうか?
小学校3年生の時に学校の宿題で自由勉強ノートというものがあったんです。宿題内容は非常にざっくりとしたもので、テーマを問わず、まとめてみましょうというものでした。実家には本が充実していたのですが、その中に「漫画百人一首」という本があったんですよ。
それを見つけた当時の私は「百人一首は100個もあるし、1個ずつ書いていったら良いや〜」と思ったんですね。これが、私が百人一首に初めて触れた時になります。
そんなこんなでノートに書きながら百人一首を覚えていったんです。すると、小学校5年生の頃には百人一首をほぼ覚えるまでになっていました。
また、私の地元の群馬では上毛かるたが有名でして。その影響もあって、県をあげての大会が開催されるなどかるたに触れる土壌が整っていました。
そこで、かるたに馴染みがあったこともあり、せっかく百人一首を覚えたのでかるたにも挑戦しようと思ったんです。そうして地元の先生の元に通い始めました。
当時は野球とテニスもやっていて、野球はスカウトされてピッチャーをやっていましたし、テニスも関東大会に出場する程の腕前でした。
でも、そんな二つを差し置いて、かるたにのめり込むようになりました。私にとってはかるたがそれほど面白く思えたんです。
-粂原さんを、そこまで引き込んだ“かるた”の魅力を教えてください。
かるたにしか無いものがたくさんあるんだと思います。例えば、一般的に畳の上では礼儀正しく座っておくものですよね。しかし、かるたでは畳の上で正座に準ずる礼儀正しい座り方をしながら、目の前にある札を思いっきり払い飛ばしに行くわけです。
こんな楽しい体験、かるた以外で代替できるものが無いんですよ。他にはどの歌が読まれるかわからないドキドキ感や、読まれた歌に瞬時に反応する緊迫感などが魅力だと思います。
かるたは戦略性もあり、体力勝負の一面もあり、精神力もを求められる。非常に奥が深い競技だと思います。特に試合終盤での緊張感は、野球やテニスよりも圧倒的にあると感じます。空気が非常に張り詰めるんですよ。
読手が歌を読む際に、一枚と一枚の間、一秒開けて読むことになっていますが、この一秒間のことをかるた界では「間」と呼んでいます。
その「間」の時間に些細な音でも生じると、やり直しとなり、歌が読まれることはありません。それこそ少しの咳払いのレベルであってもなんです。それほど張り詰めた空気感に包まれるんですよ。これは、本当に他の競技にない部分であると思います。そこが楽しいところですね。
-一瞬で勝負が決まるんですね。粂原さんはどのような戦略で勝負されることが多いのでしょうか?
相手の呼吸を崩すこと、相手にいつも通りやらせないことですね。それを一番大切にしています。
-具体的には、どのようなものになるのですか?
セオリーと外れたことをしてみるんです。百人一首には同じ音から始める歌があるんですね。それを前提に次のような場合を考えてみましょう。
例えば相手の陣地に「秋の田の〜」という札があり、自分の陣地に「秋風に〜」という札があったとします。この場合「秋の」と聞くと相手の陣地を払い、「秋か」と聞くと自分の陣地を払うことになります。
ですから、上記の2枚は相手の陣地と自分の陣地に分けておきましょうというのが、セオリーとされています。なぜなら、どちらか一方の陣地に2枚が揃っていると、まとめて払うことができてしまい、相手からするとバラバラの時より攻めやすい状況を作ってしまうことになり兼ねません。
それに対し、私は相手に“札を送る”チャンスがあった時には、2枚が相手の陣地に揃うように仕向けるんですよ。(札を送るとは、相手陣にある札を一枚取ると、自陣の札から好きな一枚を相手の陣地に渡すことができるルールのことです)
そこで送られた相手の様子を伺ったり、動揺を誘ったりするわけです。他にも、相手が自分に対して抱いているイメージを目一杯利用しようとしますね。そして試合の中で、その私のイメージに反することを意図的にしています。
-王道と違うことを積極的にされるんですね。他にもありますでしょうか?
札の並べ方などが挙げられると思います。基本的に指導者の方は、自陣にある札を均等に並べておきましょうと指導する場合が多いんです。試合開始時、自陣の札は25枚あります。
そのため、2列に分けて13枚・12枚と並べたり、14枚・11枚と並べたりするのが王道とされています。
それに対し、私は相手が払いやすい位置に固めて、札を置いたりするんです。そうすると、相手は無意識のうちにその位置にある札に集中してしまいます。そのように相手に意識させておいた上で、相手よりも早くその札を取るんですね。
すると、相手はペースを崩しますし、それ以外の場所の札への意識が疎かになってしまうという場合もあります。このように相手の感覚をずらしていくことですね。
>> 次頁「ここ一番での集中力が勝負を決める。」
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